契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「香耶はこっち」
再び名前で呼ばれて、香耶は戸惑いながらも言われた通り助手席に座った。
「じゃあ、失敬」
運転席に乗り込むとき、拓翔が唖然としている麻友たちに声をかけた。
すぐに発信させて、店から遠ざかる。
首都高速に乗る前に、まず後ろに座っていた佐和がホホホと笑いだした。
「あの子たちの顔、見た」
「ええ」
拓翔も笑いをこらえているようだ。
香耶ひとりがいたたまれない。
「義妹がお耳汚しなことをして、申し訳ございません」
「古泉家のお嬢様なら、もう少し賢いかと思ったんだけど」
佐和の言葉を拓翔が聞き返した。
「古泉って、あの漢方薬の古泉製薬ですか」
「あら、言わなかったかしら。香耶さんはそこの娘さん。あなたも小学生の頃に軽井沢で会ってましたよ」
「えっ」
驚いたようなひと言のあと、拓翔は黙り込んでしまった。
思い出し笑いをして機嫌がいいのは佐和ひとりで、運転席と助手席の間には何とも言い難い空気が流れていた。