契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
初対面の時に『古泉』と名乗られても正直思い出せなかったし、ピンとこなかった。
祖母がわざと黙っていたのかもしれないと思うと、なんだか腹立たしくもあった。
いや、このムカムカとした感情は、嫌な話を聞いたせいかもしれない。
どうしても気になって、森谷家の伝手を使って古泉香耶について調べてみた。
香耶の祖母と母はすでに亡くなっていたが、父親は香耶が中学生の時に再婚している。
どうやら全然似ていないと思った義妹とは、半分血がつながっている。
正妻が亡くなったので、いわゆる愛人がその座に座ったということだろう。
だが家族だというのに、義妹があそこまで義姉に対して嫌味をいうものだろうか。
外見をさげすみ、友人に嬉々として離婚の原因をしゃべるほうがどうかしていると思ったくらいだ。
それにしても、まさか香耶に結婚歴があったとは驚きだった。
義妹が言っていた、香耶が地味だから夫が浮気したなんて、とても信じられなかった。
祖母を世話してくれている様子や、拓翔のために用意してくれる食事にも文句のつけようがない。
性格も穏やかそうでいて、芯はしっかりしているのが好ましい。
容姿のことは個人の好みもあるだろうが、拓翔から見たら好感が持てるのは間違いない。
スタイルはいいし、清潔感がある。それにやわらかな話し方も上品だ。