契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



ひとつだけ残念に思うのは、香耶は辛いことも悲しいことを自分の中にためこむタイプだということだ。

ジムで会ったときに「闘っている」と言っていた言葉は、どうやら噓ではなさそうだ。
理不尽な家族や離婚が香耶の心に暗い影を落としているのだろう。
おそらく、そんなつらい過去に負けまいと闘い続けていたのだ。

祖母の財産目当てではと思い込んでいたのが、今さらだが申し訳なくなってきた。

祖母の体調はかなり安定してきている。
祖母が元気になれば、香耶も一緒にマンションを出て行くのだろうか。

疲れて帰った時に、少し緊張しながら生真面目な顔で出迎えてくれた香耶。

ふたりがいなくなったら、元の生活に戻るだけだというのに拓翔の心はざわめく。
ポッカリと心に穴が開いたように感じるほど、拓翔の中で香耶の存在は大きくなっていた。

もっと彼女を知りたい。
彼女の心を自分に向けたい。

だが離婚の傷が癒えていないのなら、つけ入るべきではないだろう。
わかっていても、拓翔は自分の気持ちを抑えきれなくなっていた。



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