契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
求めあう心



麻友と会った夜から、香耶は不安を感じていた。

今まで隠していたつもりはなかったが、拓翔には香耶自身のことはなにも伝えていなかった。
家族とうまくいっていないことや、離婚歴があることを黙っていたのが不愉快だったかもしれない。
祖母の看護師を任せられない、信用できないと言われても仕方がないと覚悟していた。

ところが、拓翔の態度に変化があった。
以前と比べて香耶に向けてくる視線に刺々しさはないし、交わす言葉も増えている。
親しくなったと言ってもいいくらいだ。

これまで顔を合わせることはほとんどなかったのに、今では拓翔の帰宅が早い日は三人で夕食をとることもある。

遅くまで論文を読んでいる拓翔にコーヒーを淹れたら「ありがとう」と言われるし、時間の余裕があるときには「俺も行こう」と、買い物の運転手をかって出てくれる。

(まさか拓翔さんとこんな自然に話せるなんて)

これまでと真逆の言動に、香耶は戸惑いを感じていた。
もしかしたらレストランで義妹との会話を聞かれたので、同情されているのかもしれない。

そう思えば、拓翔が変わったことも納得できた。

佐和の体調がよくなれば終わる関係だ。香耶は今のひとときを大切にしたいと思うようになっていた。






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