契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話


***



「ただいま」

「あ、お帰りなさいませ」

佐和が休んだあと香耶がキッチンで片づけものをしていたら、いつになく拓翔が青い顔で帰宅してきた。

「すみません、気がつかなくて」
「いや、かまわない。変わりないか」
「はい。佐和様はお休みになっています」

ソファーに座るかと思った拓翔は、カウンター席に腰かけた。

「水をもらえるかな」
「はい」

冷たい水をグラスに注いでカウンターに置こうとしたら、その前に手が伸びてきた。
グラスを持つ香耶の手を、拓翔の大きな手が覆う。

「あ、すまない」
「いえ」

たかが手が触れたくらいなのに、香耶はうつむいてしまった。

「君はよく下を向く」
「えっ」

初めて言われた気がして、香耶はカウンター越しに拓翔の顔を見る。

「やっとこっちを見たな」

視線があうと、なぜか気恥ずかしい。

拓翔は疲れた顔をしていたが、香耶を見つめる目だけは澄んでいる。




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