契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
思えば不思議な関係だった。祖母の親友だった人が、香耶の事情を知って助けてくれたようなものだ。
「私が元気になれたのは、あなたのおかげよ」
佐和はそう言ってくれるが、香耶こそ感謝している。
「契約は終了ね。あなたはこれからどうするの」
「看護師として、これからも働こうと思っています」
香耶の言葉に、佐和はうなずいている。
「私はもう大丈夫だから、今度はあなたの人生を応援するわ」
香耶は「大丈夫」という言葉を聞いて、太田家で介護をしていた恵子のことを思い出した。
恵子も香耶を逃がす時に「自分は大丈夫」と言っていた。
「佐和様、ありがとうございます」
香耶の背中を押してくれている暖かい言葉だと思った。
「じゃあ、桜を見に出かけませんか」
お別れの意味で明るく誘ってみたら「いいわね」と言って無邪気に佐和は喜んだ。