契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
佐和の顔色を見て、医師はテキパキと看護師に指示をした。
「酸素飽和度は」
「九十切りそうです」
「ステロイドの点滴と、吸入の準備」
鼻マスクを看護師がつけようとしたが、佐和が咳き込むのでタイミングがあわない。
「佐和様、少し痛いかもしれませんが我慢してくださいね」
香耶はマスクを受け取ると、話しかけると同時に装着した。その手際を見て、看護師がホッとしている。
「勝手にすみません。私は佐和様のお世話をさせていただいております看護師の古泉と申します」
マスクをつけたまま、佐和もうんうんとうなずいている。
拓翔が怪訝な顔をして香耶を見た。視線があったが、拓翔からはひんやりとした空気を感じる。
「看護師?」
うさんくさそうな言い方だ。
香耶は「はい」と答えたが、佐和に借りたサイズの合わないスーツや、ひっ詰めて後ろでまとめた髪型では田舎の中年女性にしか見えないだろう。
どこから見ても、セレブリティーな池辺佐和の世話をしているにしては地味すぎる装いだ。
佐和の孫だという医師に、あまりよくない印象を持たれたかなと香耶は心の中でため息をついた。