契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話




佐和は昔から喘息を患っていたそうだ。
年齢のわりに若々しくて元気そうな佐和だが、突然に発作を起こすことがある。

香耶も初めは佐久市内のアパートから車で軽井沢の別荘に通っていたが、最近では住み込むようになっていた。
夜間にひとりになるのが不安だという佐和の希望からだ。
看護師というより話し相手に近いのかもしれないが、それくらい家族のように頼りにされていた。

今日は「芝居が見たい」と言いだした佐和に付き添って、久しぶりに東京にきていた。
しばらく喘息は落ち着いていたのに、昼の部が終わって劇場を出たら急に咳き込み始めた。
夕方になって急に冷え込んでいたせいか、室内と屋外の寒暖差が思わぬ刺激になったようだ。

病院を受診することを勧めたら、孫が勤めているところがいいと佐和が言い張った。
青葉大学病院の救命救急科で働いているという孫の森谷拓翔に、どうしても診てもらいたいという。

せっかく受診したのに訝しい視線を向けられるということは、どうやら香耶の存在は家族には伝わっていなかったのだろう。
佐和は家族との交流を避けていたようだったが、こうなるまでに挨拶しておけばよかったと悔やまれる。



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