契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
息を整えながら、医局の扉を控えめにノックする。
「どうぞ」
拓翔の声が聞こえた。
香耶は夢中で走ってきたから、まだ心臓がドキドキしている。
「失礼します」
拓翔はドクターコートを脱いで、半袖のシャツ姿だ。
帰ってしまう前に、なんとか間に合ったようだ。
拓翔はさっき会ったばかりの香耶が医局まできたことに驚いている。
救命救急科の医局には、お昼少し前だからか拓翔ひとりのようだ。
ほかに誰もいないようで、ホッとする。
一歩中に入ってから、香耶はそっとドアを閉める。
「あの、お忙しいところすみません」
香耶は勇気を出して切り出した。
「今、お返事をさせていただけませんか」
きっと緊張しているのが顔つきで伝わったのだろう。
拓翔もわかってくれたのか、ゆっくりとソファーから立ち上がる。
「その前に、もう一度俺から言わなくちゃいけないだろ」
香耶が震える心を落ち着かせようと深呼吸していると、背の高い拓翔が目の前にきていた。
「香耶、俺と付き合ってくれないか」