契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
再びの言葉だが、香耶にとっては大切なものだ。
「俺はこのとおり忙しい。仕事を優先してしまうこともあるかもしれない」
「は、はい」
「でも、君が好きだ。そばにいて欲しいと思えるのは君だけだ」
「私も、拓翔さんが好きです」
佐原の言葉に勇気をもらって飛ぶようにここまできたのに、それだけ言うのがやっとだった。
その短い返事を聞いて、拓翔はうれしそうに笑ってくれた。
香耶の胸の奥で、熱いものがはじける。
「断られることは想定していなかったが、いざとなると心臓に悪いな」
緊張をほぐすような言葉だが、香耶が心を決めたことを喜んでくれているに違いない。
これまで迷い続けていた香耶は、申し訳ない気持ちにもなった。
「好きだよ、香耶。今日から君は俺の恋人だ」
「私も、拓翔さんが大好き、です」
消え入りそうな声だが、やっと思いを告げられて香耶は涙がこぼれそうなくらいだ。
「ここ、職場なんだよな」
キスもできないと拓翔はぼやく。
香耶は真っ赤になりながら、今さらのように勢いだけでここまで来てしまった自分に驚いていた。
自分の中にこんな情熱があったことが、うれしくてたまらなかった。