契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
拓翔は三か月なんてすぐだと言ってくれたが、九十日、十二週間、どんな数え方をしても会えない時間が変わるわけではない。
出発が決まってから、ふたりは少しでも長く一緒に過ごすようにした。
「寂しいのは。同じだよ」
拓翔の言葉に、香耶は微笑むのがやっとだ。
「お気をつけて」
「ああ。できるだけ連絡する」
「はい」
無理はしないで欲しいと思いながら、香耶は待つことしかできない。
「帰国する日は連絡するから、マンションで待っててくれ」
「わかりました。お好きなものを作って待っていますね」
帰ったらすぐに会いたいからと言い残して、拓翔は行ってしまった。
***
その日からは、とてもゆっくりと時間が流れる気がする。
たった三か月だとわかっていても、拓翔が近くにいないだけで毎日の張り合いがない。
疲れた日でも、拓翔が同じ病院で働いていると思えば心が温かくなったのに、今はなにも感じない。
(私の心の真ん中には、いつも拓翔さんがいたんだ)
ようやく香耶にも実感できた。
大切な人との間には、好きという言葉だけでは埋められないものがある。
(私が変わらなくちゃ)
このままではいけない。拓翔ともっと触れあえたら、今感じている心のすき間は埋まっていくはずだ。
香耶は、拓翔から帰国の知らせがある日を指折り待っていた。