契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
いつだったか、マンションのジムで見かけた時に感じたのは、自分に厳しいということだ。
自分と闘わなくてはいけないと思い込んいるような気がしてならない。
いったいなにが彼女にそうさせるのだろう。
偶然見かけた光景も忘れられない。
いつも毅然としている香耶が、感じの悪い義妹に絡まれていても言い返さない。
事情を知れば結婚は家のためだったし、離婚だって彼女に非があるとは思えない。
相手の男は愛人を作って、子どもまで産ませたというではないか。
彼女は怒ったって恨んだっていいはずなのに、相手には言わずに自分の心の中だけに感情を閉じ込めている。
もしかしたら、義妹や元夫と同じ泥沼に落ちたくなかったのかもしれない。
怒りにまかせて爆発したって、後悔しか残らないこともあるだろう。
そんな香耶を近くで見ていて、ひかれないわけがない。
義妹の前では親し気に話しかけ、恋人のように助手席に乗せたりもした。
そうなるといいという、自分の願望でもあったからだ。
彼女の気持ちが自分に向いて欲しいとは思うが、誤解して冷たい態度をとっていたことを謝るのが先だろう。
やっとふたりで話す機会があった。
彼女に付き合って欲しいと申し込んだが、彼女はうんとは言ってくれない。
残念だが、こっちの気持ちを押しつけるだけでは、恋は成り立たない。
それに一度の告白で諦めるほど、こっちだってやわな男ではない。