契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
香耶が小児科病棟の男性看護師と一緒にいるのをよく見かけるようになってきた。
仕事上のことだとわかっていても、つい気になって目で追ってしまう。
香耶からは大学時代の同期だと聞いていたが、特別に仲がいいように見えた。
離婚したことが悪いうわさになったとき、ナースステーションで助けてくれのも彼だったらしい。
看護師同士のうわさだろうが、自分がなにも出来なかったことが悔やまれる。
丸顔の優しそうな男性と香耶は、ずいぶん気さくに会話できる関係のようだ。
香耶にアプローチしているつもりだが、身近に男性がいると思うと少しばかり焦りを感じる。
たまたまエレベーターで偶然出会ったとき、例の男性看護師が隣に立っていた。
親しげに話しているのを目の前にして、思わず香耶のそばに近寄ってストレッチャーと彼を押しやってしまった。
大人げなかったかもしれない。
病院では医師と看護師として接しようと約束していたのに、親し気に声をかけてしまうくらいには嫉妬したのだろう。
その時の独占欲が香耶に伝わったのか、すぐに医局まで走ってきてくれた。
緊張した表情から、やっと気持ちが固まったんだと気がついた。
「香耶、俺と付き合ってくれないか」
もう一度同じ言葉を香耶に告げる。
あとから聞けば、一歩前に進む勇気を持てたのは例の男性看護師の言葉のおかげだったそうだ。
勝手にライバルと決めつけて、申し訳なかった。
『好きな人から好きって言われるだけで幸せ』
その言葉に香耶の心が開いたのだとしたら、感謝しかない。