契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



とはいえ、忙しいふたりが付き合うのは難しい。
普通の恋人のようなデートは、なかなか実現しないのだ。

そんな時、急に教授と一緒にアメリカへ出張することになった。
予定していた医師のひとりが急病のため、ピンチヒッターとして選ばれたのだ。

教授のチームで、日本の救急医療と北米型のERを比較して、双方のよさを研究した論文を書くそうだ。
日本の医療現場では重傷者が中心になるが、北米では初診でもERを受診すると聞く。
つまり軽傷から重症まで幅広く受け入れているようだ。
そうなると、ひとりの医師が受診してから退院するまでを受け持てる日本の病院のようにはいかないが、大勢の患者を受け入れられるメリットもある。
目的のある出張だから、おそらく気を抜く時間はないだろう。
いつもなら喜んで受ける仕事だが、今回は香耶と離れると思うとため息をつきそうになった。

成田から飛び立つまで、少しでも時間が空けばふたりで会うようにした。

心の中では彼女に触れたいと思っていたが、香耶には無理をさせたくない。
短い結婚生活で何があったのかわからないが、ゆっくり時間をかけて心と体を開いてくれるのを待つつもりだ。

出張の間は、毎日が物足りない。
時差があるからなかなか電話もままならないし、こっちも仕事も忙しくて気が抜けない日々だ。

(早く帰りたい)
(早く帰って、香耶に会いたい)

前に結婚を決めた時にはなかった熱い想いに戸惑うが、人を恋するとこんなにも変われるものだと知った。

結ばれたいと本気で願う相手と出会うことが、人生で何度もあるはずがない。
ただ一度だけかもしれない相手が香耶でよかったと、拓翔は思っている。




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