契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
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拓翔から「帰国が決まった」という連絡があってから、香耶はその日を指折り待っていた。
同期の佐原から「顔がにやけてる」と言われながらも、あと何日と考えるのをやめられなかった。
待ちに待っていた日だ。
香耶は約束した通り、マンションにやってきた。
顔なじみのコンシェルジュが部屋に通してくれたので、彼の好きなものを作って、軽い白ワインも飲み頃に冷やした。
今は、ベイエリアの景色を眺めている。
チャイムが聞こえて拓翔が帰宅したとわかると、香耶は玄関まで駆け出した。
「お帰りなさい」
「ただいま」
拓翔が「あれ」という顔をして、香耶を見ているのがわかった。
いつもきつくまとめている髪を、今日は長いまま下ろしているから雰囲気が違うせいかもしれない。
黙って見つめられたら、三月ぶりのせいか妙に照れくささを感じる。
「お疲れさまでした」
香耶が言葉を言い終えるより早く、拓翔の方がスーツケースは玄関に放り出した。
「香耶、触れてもいいか」
意味がわからなくて、一瞬だけポカンとしてしまった。
「君に触れたいんだ」
もう一度同じ言葉が聞こえて、香耶は頬が熱くなる。
イエスと言えなくて、ただうなずいた。
拓翔がゆっくり手を伸ばしてきたと思ったら、あっという間に香耶の細い体は抱きしめられていた。