契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話


「よかった」
「急には無理ですが、少しずつ荷物をここに運んでもいいですか?」

二年の契約でアパートを借りていたから、解約するには少し時間が必要だ。
そう事情を話したら、拓翔はゆっくり準備すればいいと理解してくれた。

「君の都合に任せるよ」

ふたりでまた暮らせる日が楽しみだと、拓翔はうれしそうだ。
その顔を見ているだけで、香耶も心が弾んでくる。

「佐和様には、いつお話ししましょうか」
「次の休みに、帰国の挨拶がてら池辺の家に行ってくるよ」

「はい」
「うちの親は忙しくて、予定がなかなか合わないんだ。近いうちに香耶を紹介できるように、きちんと時間を作るよ」

拓翔の両親はどちらも仕事を持っている。
拓翔も時間が取りにくいから、いっそ佐和や古泉の家族を含めて一度に顔合わせをすませたいと言いだした。

「わかりました」

父とは住むところや仕事が変わったときなど、最低限の連絡だけは取っていた。
義母や麻友と会うのは気がすすまないが、こればかりは避けられそうにもない。

「幸せになることだけ考えるんだ、香耶」

不安な気持ちが伝わったのか、拓翔はそう言って香耶をそっと抱きしめてくれた。



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