契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「香耶さんは看護師なんだね。うちも人手不足で困ってるんだ。うちに来ない?」
「ありがとうございます。今は青葉大学病院で、いつかお役に立てるよう勉強いたします」
ハハハと笑いながら、拓翔の父はご機嫌だ。
「いいお嬢さんだ。拓翔のこと、任せたよ」
香耶は大きな声で「はい」と答える。
それを森谷家の面々は、元気でいいとか、かわいいと言ってほめそやす。
「ふたりがこうなるといいなって思っていたのよ」
佐和の言葉に、拓翔がやれやれといった顔をする。
こんなにも歓迎されている香耶の姿を見て、古泉家が口を出せるわけがない。
久しぶりにあった父はかなり老け込んでいた。
ただ「娘をよろしくお願いします」とだけ言って、頭を下げてくれた。
義母は少し口を歪めた笑顔を張り付けていたし、麻友にいたっては珍しいくらい無口だった。
さすがに森谷総合病院や池辺製薬を敵にしたくはないのだろう。
家族が揃っている光景は、香耶がなによりもほしかったものだ。
思いがけず森谷家の家族に祝福されて、うれしさがこみ上げてきた。
同時に、今度は契約ではなく普通の恋愛結婚なんだという実感がわいてくる。
「結婚式はいつがいいかしら」
「今から急いで準備しても、二月か三月ね。でも最近は先に入籍するらしわ」
「まあ」
さっそく気の早い佐和と拓翔の母が相談し始めた。
その会話を涙をこらえながら聞いている香耶の手を、隣に座っている拓翔がそっと握ってくれた。
「はやくふたりになりたい」
身元に小声で囁いてくる拓翔。
その言葉に、香耶は黙ってうなずいた。