契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話


顔合わせが終わってから、佐和たちの勧めで縁起がいいといわれる日に婚姻届けを出した。
その日から、香耶はマンションで暮らし始めた。
無彩色だった拓翔の部屋にはみずみずしい緑の観葉植物が置かれ、黒いソファーには色鮮やかなクッションが増えている。

もう離れたくないし、誰にも遠慮することなく彼のそばにいられる。
そう思っていても、香耶には心配事もある。

「私、何も知らないから、あなたをがっかりさせそうで」
「なに言ってるんだ。どれくらいこの日を待っていたか」

シャワーを浴びてから、香耶は妻として初めて拓翔の寝室に入った。
広いベットに並んで腰かけると、拓翔の手がゆっくりと香耶の頬に触れる。

「君が好きすぎて、どうにかなりそうだったよ」
「拓翔さん」

お互いに気持ちが通じあってからも、拓翔は香耶に無理強いをしなかった。
短いキスを交わしたりハグしたりして、香耶への愛情を時間をかけて示してくれていた。

「私も、あなたが好き」

緊張してわずかに震えている香耶を、拓翔はしっかりと胸に抱き込んだ。

ゆっくりと髪をなでられ、頬にキスをされ、唇に熱いものが降りてくる。
そのまま首筋に、胸元にとキスが続く。

「ああ」

香耶の中にあった、固くて冷たいものが溶けていく。
ふたりの四肢が複雑に絡みあい、お互いの熱がすみずみまで伝わったからだろうか。

「香耶、愛してる」
「うれしい。あなたを感じる」

生きている実感が、香耶を貫いた。
大きなうねりの中で、香耶は拓翔の背に両腕をきつく回した。

「離さないで」
「わかっている。君のそばにいるのは俺だけだ」





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