マフィアの弾丸 Ⅲ




 「……ゆっくり深呼吸しろ。息止めるクセに慣れてっとからだにも頭にも酸素回ンなくなって
 そのうち
 心不全になっちまうぞ」



 「────ッ、」




 噴水の(へり)に、座らせた私に淡々とかけられた言葉。

 業務的のような、そうでも無いかのような、どちらとも取れない不可解な言動。



 そのまま(かしず)くように片膝をつき、身を屈ませたシルバーブルー頭の男は。

 私の足首を
 もちあげるや否や、どこから・いつから持ち寄っていたのか。


 赤十字のマークの記された救急箱を、
 黒服のひとりから受け取ると
 事務的に私の(かかと)に消毒液を吹きかけていく。




 ────シュッ、




 「っ、」


 さすがに、擦り切れていたらしく痛みが神経に、皮膚に突き走って咄嗟に、
 声をあげそうになった。




 ・・・・・上げられなかったけど、

 いつ、バレるかもわからないこの状況で、・・・・。



 なんて、募る不信感を疎かにするワケにもいかず。

 はやく、船岡さんたちのもとに戻らなくてはならないのに、と。



 焦りばかりがまた、脳内を侵せば
 やはり緊張や緊迫で肩も竦み呼吸も、浅くなっていって、




 「────だァから、深呼吸しろっつってンダローが。息殺すなオラ」




 見兼ねたみたいに
 踵を手当てしてくれながらも、つい、と上げられたきれいに楕円を描く、銀色の両眼が
 またすこし険しく、
 顰蹙(ひんしゅく)した。


 そして私に向かって、
 ゆっくり
 合わせて呼吸ができるよう目で合図をおくってくれるのだ。



 「ああそう、ゆっくり、…ゆっくりな」


 吸って、吐いて、吸って、吐いて。



 落ち着かないこちらの状態を、まるで案じるべく粗雑ながらも
 吐き出された低めの声音。

 それはいつもの、私と、アーウェイさんとの空気と距離感にとても類似していて。




 ・・・・・一瞬、でも。

 状況を忘れそうになる懐かしい
 優しさだった。


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