マフィアの弾丸 Ⅲ
結局────…いわれたとおり、肺いっぱいに酸素をとりこんで、ゆっくり深呼吸を繰り返して。
繰り返してみたことでなんとか、自分のなかの冷静さも回帰したらしい。
そう自覚が追いつけば、頭と連動して忙しなく泳いでいた目線も
徐々に落ち着きをとりもどし現状を、確認すべく動いていくというもので。
いまだ
丁重に手当てをしてくれている男の姿に、
ゆっくり焦点を定めていく。
(…………相、変わらず、
その外見の魅力的なこと)
あれから会っていなくとも、全然、かわらない。
変わってない。
この寒々しい夜半でも幾房か、無造作に外跳ねし艶めいて靡く、シルバーブルーの髪も、月光で妖しく魅せる白皙の面も、透き通るような純銀の、きれいに楕円を描く眼許も、その、あまりに身綺麗に着崩されたパーティー仕様の正装すら。
猛烈に美しく、体格の良さも見事に体現されたような装いでダークレッド色味の口端には、
犬も食わぬ煙草が変わらず挟まれ
宵闇のなかを紫煙が、
ゆったり上昇していっている。
ムダのない手際の良さ。
業務的に映りながらもその、丁寧な処置の回し方にさえ、恐れ入る────…、
「…なるべく呼吸は浅く吸うな。いいな?」
「…、」
伏せられた瞳を縁取る、長い睫毛の奥の目線は、いまだ私の踵に落とされたまま。
絆創膏までキレイに張りつけ、そんなふうに注意を促してくれたシルバーブルー頭の彼に、
私は首肯することで
返事とするしかなかったワケだけれど、
でも、第一・・・・・、
なんで?
そんなまでしてくれるほど、
今の私とアーウェイさんの状況は、
決して良いものでもないし何も、
・・・解決もしていないのだ。
…なんて、どうやら意味を図りかねるようにしていた私の戸惑いを、彼は空気や気配でおよそ察したらしい。
ひとつ、溜め息を吐きだしてから吊り目がちの、両眼を
私に向けると。
彼は微かに情を孕ませ低く、音に、言の葉にした。
・・・・・まるでソレは、どこまでも"そのひと"のことを、思い遣っているかのように。
大切そうに、
大事に。
そんなふうに、
聴こえたんだ・・・・・。
「────…知人にいンだよ、アンタみてぇな女がな」
・・・・・・ち、じん?
「………、」
きゅ、と。
自身の眉間に皺が寄ったのを自認した。
ねぇ、────…それは。
それは、
だれの、こと?