マフィアの弾丸 Ⅲ





 彼の、人間離れしたシルバーブルーの頭がなめらかに、屈められ。

 あっ────、と思う間もなく掬い上げられた
 その、ちいさな手の甲に、やんわりと押しあてられたダークレッド色味の唇。



 常より彼の唇に咥えられていることが茶飯事(さはんじ)のはずの、薫りのつよい煙草。



 それが────"初めて"。



 彼の手により、"(おの)ずから"解放させたその、きっぱりとした薄い紅唇が、
 なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく
 注目を集めている彼女の、細身な手の甲に、口付けを落とされた、というのが一部始終。




 ────…この異例事態は常時では
 到底、
 (おもんぱか)れることではなかった。



 そんな例外事項に、先駆け提唱したのは瞭然(りょうぜん)、当の本人同士、

 ・・・・・・ではなく。


 すべての顛末(てんまつ)を眺めていた
 至るところの
 芸能人や富豪主、長者たちであった。




 ────「何、どういうことだ?
 、…あの娘、
 船岡ホールディングス出の醜女(しこめ)じゃなかったのかい?」

 ────「儂ゃ知らんぞ、あんな女子(おなご)は。
 なぜ
 ()の方が自ら出向いておられるんだ?
 ご親戚か?」


 ────「まさか。
 ウォン家直系の親族にあのような娘は
 おられなかったとおもうが、」

 ────「では、
 琉皇(るおう)家のほうからお出ましに?」

 ────「いや、(おおとり)財閥からかも
 しれんぞ。あそこは以前にも
 養子として黎蘭(れいらん)家の御息女を御披露目されたことがあったからな」


 ────「それはそれは、」


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