マフィアの弾丸 Ⅲ
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 『____、…はぃ。もしもし』




 ────…一瞬の間をつくって、機械越しに鼓膜にとどいたのは
 もう馴染み()く、オンナのこわばった声質。




 ・・・・・若干、鼻声。

 なンだ泣いてたのかアイツ。



 クイ、と上げられた片眉は、通話先の少女に対しての感情からかもしくは────、男の足下に(うずくま)った"モノ"に対する、憤りか。



 女性にしては(いささ)か、

 低めのトーン。


 しかし確実に女性である。と理解するには、同性の『ソレ』とは、あきらかに異なる声の(あるじ)だ、と。



 自身で納得を得たらしい男が、傾聴するように(はや)る心もちを抑え。

 間を置かずしてやや固い口調が、
 「____、……いま何してる」と最速に切り出した。




 『……今、ですか』

 「あぁ」


 『ッけほ…お、……お風呂に、入って。る』




 常の調子でないだろう事はその、声つきと、息遣いで瞬時に汲みとれるものだが。

 秀美に吊り上がった柳眉(りゅうび)はことさら昂る情を、表にだすよう、吊り上げられていき。



 ____ミシミシ、と。

 それにともなって人体の骨の軋む音すら否応無しに、残酷に、轟き地面に吸い込まれていく。



 足下に(くずお)れた肉の塊たちには、

 すでに、原形が無い。



 男の眉間のしわと、並行して踏みつけられている圧力に
 抗うべくした野太い呻き声だけが。

 あたり一辺倒、
 醜く低く、反響して────…、




 ____う゛がぁアアッ!!


 ____ゥぶッ

 ____カハッ、アア゛ァアァ、




 『、あの』


 「あァ?」

 『…なん、か。叫び、声』




 ____…少女からの訝しみのふくんだ
 懸念を耳にした瞬間。



 スマートフォン片手に、肉達磨(にくだるま)を踏みつけていた男の、(かかと)は。

 奇声を発していた男たちの顎から上面(じょうめん)にむけ華麗に弧を描くと、




 グフッ!



 見事なクリーンヒットを打ち出し複数の男たちは無様に、地面に倒れこんでいく始末。



 もはや、
 血だらけの肉塊たちは指いっぽんも。

 ────…動くことすら
 かなわない。




 "ソノカタマリ"を。

 まったく動じず冷めた視線で見遣って唇に挟んだ煙草を、冷然と吹かすこの男は、




 いったい、
 "ナニ"を行っていたのか────…、


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