マフィアの弾丸 Ⅲ





 あちこちから浮上してくる、どれもこれも信憑性に欠けた憶測が飛び交う状況には頭を、抱えざるを得ないが。

 尾鰭(おひれ)のついた噂ほど、愉快なモノはない。と言わんばかりに自発的に拡散していく、形の無いソレら。


 しかしわざわざ、訂正も収拾もされるでもなく、ただ。



 ────そう、ただ。


 覇者の空気を携えるがまま彼らは
 その、沈黙を呈する異色の少女にのみ、視線を送るばかりである。




 「っあ、あの、アーウェイ様っ、」


 「パーティーでは"一度も"、お見かけしたことがありませんので
 少々、気になりましてね。
 『本年』の、
 いつ頃から船岡ホールディングスの秘書に?」



 「ッ、え…?えぇ、
 ……えっと、」




 ツイ、と流し目に移された若干、吊り目気味の、銀色の瞳。


 自分を、見てくれたという歓喜と、その向けられた双眸からは、紛れもなく怒りの色が滲みでていることにも(ようや)く、気付いたらしい船岡のご令嬢は。

 あまりの恐怖にグッ、と固唾(かたず)を呑み下してしまう。



 …それでも、しどろもどろに返答するべく、震えた唇を、
 恐る恐る動かして、




 「…ッ、し、仕事に慣れて、もらう、まで、は……。あの、弊社で研修、を…」


 「なるほど。だが、────秘書とは
 社長や代表を、影から表から凡ゆる方面でサポートを行う
 精密な職種柄です。時に
 先回りしてスケジュールまで組まなくてはならない、」


 「っも、もちろんっっ。…」

 「取引先やその他諸々。
 重役たちが円滑にコミュニケーションを図るための最重要な大仕事を、
 この、"口の聞けない"彼女がいったい、どのようにして
 請け負っておられるのか。
 (いささ)か興味がありましてね、」



 まして、────…御身内の規律には、厳重な主従関係を重んじられる船岡ホールディングスともあろうご令嬢の、秘書とは…、と、どこか底意地の悪さをも含ませたアーウェイからの質疑には。


 周囲の来賓たちもざわり、ザワリ、顔を見合わせ
 懸念を深めた反応を醸し出していく。




 ・・・・・・たしかに。

 言われてみれば、そうかも知れない、などと。



 彼らはおもい思いに顎に手を添え、アーウェイの(もっと)もらしい意見の引用に
 賛同するべく
 ウンウン、と首肯していた。




 ────…ところが、

 当の猜疑心(さいぎしん)を煽るように口にした男の、純銀色の双眸はどこか隠しきれぬ劣情と狂気を孕んでおり、
 ソレは相変わらず
 俯きがちの少女に向けられ、その
 冷静な分析ですらもまるで、




 少女に対する

 非難のように、思えた────…、


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