マフィアの弾丸 Ⅲ





 ____…時間にしてわずか、約数分間の、一方通行な対話。



 ピリピリ、と。徐々に緊迫と冷気で張りつめていく会場の空気に、素封家(そほうか)や成金は無論。

 大資本家や大企業の権力者、
 またアラブ連盟関係者各位から、貴族や華族出のご令嬢・ご子息たちまで。


 皆、面差しがしだいに強張っていくのを、止められはしなかった。




 凍りつくような重圧感。

 じわりじわりと押しつけられ、息苦しくなってゆくほどの…、




 そんな、だれもが畏怖し、固唾(かたず)を飲むしか敵わない状況に突如、緩和剤のごとく
 終止符が打たれたのは────…、




 どこか落ち着きはらった女性の声が。

 淡く、会場内に浸透し響き渡ってからだった────。




 「…何をしているの、」




 柔らかく、しかし女性の声にしては低めの、




 「────、ッ。緋雪(ひゆき)、様」




 ゴクリ────ッ。誰とも知れない、(おびただ)しい人々の固く、喉を鳴らした息遣いが途端に、撹拌(かくはん)した。



 静かに現れたその女性を、茉美子(まみこ)は『様』と名打った。

 それだけでどれほどの地位に値する人柄なのかを裏付ける。



 茉美子は、その円みがかった目許を綻ばせると、茶色とグリーンの混色アイを喜色に変え

 『緋雪』と名指す女性の傍へと、足を赴かせたのである。




 「ッわ、わざわざ来てくださったんですか?今日は伺えないって、」


 「えぇ、そのつもりだったんだけれど。去年も茉美ちゃんの
 誕生会には出席できなかったから、」

 「そっそんなこと!お気になさらなくっても。…龍牙(りゅうが)、様や皆様が、
 緋雪様を公に晒すのは
 あまり
 好まれていないのは承知していますから」


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