マフィアの弾丸 Ⅲ





 カラカラカラと────、玄関口をぬけ引き戸を開ければ、格段に
 寒さの増した冷気が遠慮も配慮もなく、
 家のなかへ入りこんでくるので



 ツン、とした鼻翼(びよく)をかすめていく痛覚に、

 おもわず「…さむ、」と呟いてしまう。


 それでも常のごとく、
 着込んだ姿で真冬の明け方に身を、投じていき。

 手にしているふたつのゴミ袋を
 たずさえて、石畳をふみしめていく、




 ・・・・・ところまでは────…、


 フツーだった。

 そう、いつも通り。



 なのにふ、と。



 門扉外のほうにとくに意味も、脈絡もなく目の向きを渡した瞬間、____…。




 「…」




 ・・・・・ほんとうに。なんの思考も、意識も邪念も無く、だ。



 この住宅街に、あまりに不似合いなその"物体"と、"人影"の視認。


 認識、

 再認。




 ────…ムシ、していればよかったんだ、



 いつもみたいに人を、認識しすぎず。

 自分のペースで歩むために。



 なのに今、この刹那にかぎって、"ソレ"が何か、怪しい人でないかとか確かめるために目を凝らすなんて真似、
 したから────、




 (っ、)




 ・あ・・・・足、が。

 竦む・・・。




 ぼやける意識に、冷や水をぶっかけられたような。

 それなのに(たぎ)ってくる感情の熱さえ、浮上してくる。



 ────…一瞬、一歩。

 片足が逃げようとうごいてしまったとき、


 捉えたあのひとの空気が。

 わずかに。




 首筋を撫でるピリピリとした気配(もの)へと、

 変遷(へんせん)したように感じた____。


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