マフィアの弾丸 Ⅲ





 「……っぇ、と」



 言い訳、なにか
 この時分に合う適当な言い分・・・・、

 可及的(かきゅうてき)、不自然の無い、
 否この際とってつけたような文言でも良____…




 いや・・・・・ダメだ。




 何を言おうにもぜったい、この分じゃあ墓穴(ぼけつ)を掘りそうで尚更、開口に躊躇(ためら)う。

 しかも言ったところで、どうなる?関係ある?このひとに話す、
 意義なんて……、




 「……」

 「……」




 そこまで────考えて。



 ひとり脳内で黙考していた折、

 さあっと冷たい寒風が唐突に、吹きつけ咄嗟に、目を(すが)めてしまった。



 吹きつけられた拍子に微かな、砂埃が目に、はいりそうで、


 きゅ、と目蓋を下ろした私の肩に、こんどは重みと温もりと、品のよい男性ものの、
 香水の香りが自分をとり巻いたのがわかって
 瞬時に、そちらに視線を向けた。




 「……っぇ、…あの」


 「…寒いだろ。立ち話をしたいワケじゃない。……車に、乗れるか」


 「…くる、」

 「目の下にもクマができてる。…さいきん、寝れてねーだろ」


 「、…い。え。……」


 「耳の血溜まりも消毒したい。すこし、…時間をくれるか」




 『くれないか』ではなく、『くれるか』。



 強制的でないとは言え、あまり気分のいいお誘いでないことは確かだ。

 それでも、断る理由すらいまは、見つからないのだから了承する他、選択肢も無く。




 ジャンパー着のうえから、かぶせられた闇のなかに溶けこみそうな濡羽(ぬれば)色の、ロングコートが。
 地面に、(したた)かに引きずられていく様を見て



 コレはさすがに、
 「…ぁの。、こ、コート」と。



 カーフェイさんの、一級品そうな上着がよごれはしないか(────だって、
 明らかに引きずっているのだ、)と心配で声を張り上げてみたというのに。


 とうの彼と言えば、半ば、強引に私のことをリムジンのほうまで連れて行こうと
 まったく
 気にも留めていない様子。



 ────挙句は、
 「安物だから気にするな」なんて。

 体のいい
 ジョークなのか何なのか、


 まったく、貧民たるこちらとしては笑えない、切り返しをしてくる始末なので
 困ったものである。


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