マフィアの弾丸 Ⅲ





 ────…突如あらわれた、濡羽(ぬれば)色の髪の女性。


 年齢からして凡そ、30代半ば。

 ・・・・・といったところだろうか。



 その彼女と、嬉々として談笑する茉美子(まみこ)とは裏腹に、参列者たちは
 彼女を視界に投じた瞬間、────…一様に鎮まりかえる。



 ヒソヒソ話さえ開口することも
 しなくなった
 彼らは皆、
 そろえて口を閉ざしていく始末であるのだ。



 それはまるで────…、『蛇に睨まれた蛙』ととても、よく、酷似していた。




 同時に、その女性の登場で気が削がれたらしいアーウェイとカーフェイも。

 一旦、呆れたように
 殺気を仕舞っていくと切りをつかすべく
 カーフェイは顎で、
 側近の彼に指示を下した。



 掬ったままだった少女の手を、やんわり、離したアーウェイは
 カーフェイからの指南に肩を竦ませ。

 しかし躑躅(つつじ)色の髪をした少女を見下ろし、ごく、
 自然な所作で頬に張りついた一房を
 ふたたび耳に、かけてやると。


 その鋭い眼光は、傍らにいた船岡ホールディングスの令嬢へと厳しく
 向けられた。




 「────…申し訳ありませんが、こちらの女性を少々、お借りしても?」



 「────ッえ?、」




 ────…刹那、



 少女の(かんばせ)が。

 おおきく動揺
 したように、強張った────…。


< 6 / 76 >

この作品をシェア

pagetop