マフィアの弾丸 Ⅲ





 慌てて振りかえり、羽のようにかるい口を叩く男の、言葉をさえぎるべく
 手の平を大袈裟に、
 小綺麗な顔面めがけて
 乗りかかるよう、覆った____、




 …まではよかった。




 「────フッ。おいおい、やけに精力的じゃねェーか"お嬢さん"?
 こんな体勢
 仕掛けてくる心意気があるっつーコトはァ、」

 「ちょっ、と黙っ、」

 「あ?ンだって?ヤりてぇーって?しゃあーねぇなァ。
 おれ正常位しかイけねーんだよ。
 オンナに跨がられっと、腰振」


 「ちょっとほんと!黙っ!」


 「わーぁったわァーった、貧乳に免じてユルしてやっから
 そう、吠えんな。
 きもちヨくしてやっ」



 「黙ってくれないとそのイチモツちょん切りますけどっっ?!!」




 ____しかし体勢が、あまりに悪かった。




 勢いついて彼を、押し倒すようにしてしまったばかりに、変な方向に
 道連れにされそうになるので
 もはや、どちらにしてもコチラは必死の防御である。




 それがゆえに、自分がどんな顔の表情をしていたかも定かじゃない。相当、鬼の形相だったのだろう。



 私に跨られながら
 すっ飛んだ冗談を吐いていたアーウェイさんも、さすがに若干、
 ドン引いたように
 「…お前、顔面ひでぇーぞ」なんて指摘してきたが
 今はそろどころでは無い。




 「…『股のあいだ』ってのは、何だ」

 「…、何。も」

 「つまり昨晩のパーティー会場にいた事実は認めた事になるワケだが?」

 「……だっ、だから。あの、」

 「じゃあ『下心あったからあんなコトをしたアーウェイ』とやらの話を
 聴かせてくれ」


 「………っい、や…、」




 ・・・・ダメ、だ。この人のまえだと萎縮して、緊張して、・誤魔化しすら
 形にならない。




 開口して、閉口して、口籠もって。

 結果、言葉が見つからず吃音(きつおん)だけが嫌に舌から、スルスルと抜け落ちていくばかり。




 「ッ、…」




 尋問のような口語で背後から、問い(ただ)しにくる
 カーフェイさんには頑なに背を、
 向け。


 内心、動転している私はいまだに、
 シルバー
 ブルー頭の彼を跨いだまま不恰好体勢で不動。




 うろちょろと忙しない、自分の視線が眼前の、アーウェイさんのムダに、体格のよい胴体やらスリーピーススーツやら、微かについた皺やら、を行き来するしか脳のない動作の不完全さと。


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