マフィアの弾丸 Ⅲ





 こんな真冬の早朝(もと)、一般公道に堂々、路上駐車している車中(リムジン)でいったい、
 "ナニ"を繰り広げているのか。



 (いささ)
 珍妙なコメディアンのようである。

 明け方もだいぶ、更け、
 朝陽が宵闇から徐々に顔をだす。




 フルスモーク、とは言え暗がりから陽の光りが差し込むと人工的なそれも、
 用を成さない。



 神々しいほどの美しさをもち、且つ、身分も能力も極上の男・ふたりに
 取り付く島もない切りかえしで
 迫られっぱなしな伊万里だが、

 わずかに差し込む朝日によって自我をとりもどしたのか、
 ジタバタ。と
 彼らから逃れるべくちいさな体を
 小鳥のように打ち出し反論をつらねていく。




 「っと!……や、…ぇっと。とりあえず、……フツー、に座らせてもらえません、か」


 「逃げんだろお前」

 「いや、逃げませ」


 「さっきおれの顔見て踵かえしたヤツがよく言えたもんだナぁ?
 あぁ?
 コレか、
 このちっちぇー口が嘘っぱち吐くンか?

 ────あ゛ぁ?」


 「ぅぶっ、」



 半ば強引に、うしろからニョキっと顎先に回りこんできた男の手が
 伊万里のちいさな顎を絡めとるなり、
 むにゅ、と両頬を掴んで。

 小鳥が親鳥から餌を食べるような
 口の尖りに
 させられたものだから、さすがの少女も、丸い頬に熱が集まっていくのがわかった。



 「ッッ、」

 「…(ナァに)赤くなってんだお前」

 「っひ、……ぅ」


 「…おい、アーウェイ」

 「しかも、ンななまっ(ちろ)い足しやがって。いつまで経っても(ほっせ)ぇーしよ」


 「……あぁ、それは。


 …そうだな」



 顎を掬われているてまえ、否が応でも顔の角度は斜め後ろの、
 シルバーブルーの美神に向いている
 ワケだが。

 その反対の斜め下からは、また、もうひとりの突き抜けた美の、彫像のような
 グレーブラック髪の男の、首を傾げる気配があり。


 兎にも角にも、
 未体験のおおい少女にとっては。

 目のやり場に困る
 ある種、過酷な現状であった。


< 88 / 114 >

この作品をシェア

pagetop