マフィアの弾丸 Ⅲ
頭上と足下からの、板挟みに、繰り広げられる男たちの掛け合いにかわった様子を
察知した伊万里は
よし、キタ!と。
自分への焦点がズレてくれたことに奇を衒うかのごとく、モゾモゾ、
シルバーブルーの美神の腕から
離れようとうごき出しはじめたというのに、
────がっちり。
それはそれは、がっちり、背後からも足下からも身体の拘束を強いられただけであった。
・・・・・瞭然、お咎め攻撃も辞さない。
「…オ゛イ逃げる気だったなてめぇ、ほんっっと学ばねーヤツだなお前ぇは」
「っ、」
「____あったく。カリカリすんのは身内の"長兄"だけにしてほしいぜ」
やれやれと。
呆れ果てた気配を背後から直に、受けとればそれはそれで。
身を、縮こませていたはずの少女の心中も、そう、穏やかではいられまい。
まるで、自分のほうが厄介者扱いをされては、さすがに、
おさまっていた感情も
波が上擦ると言うもの。
「しょ、……………職、場の、先輩、と…キス。してましたよね」
「あぁ゛?」
その牙が向いた相手は、常日頃の悪態三昧な側近のほう、
────ではなく。
「…金曜日、です。先週の。
カーフェイさん、…キスして、たか。ら」
こちらに向けられた焦茶色の眼差し。
日本人特有の、黒味がかった、
それでいて純真無垢にもみえる少女の瞳。
攻撃色も滲みでながら、なにかを確かめる意思を秘めた強い、目力。
・・・・・ビロードのようだ、と。
はじめて対峙したときから、印象的だった。
その眼球ごと抉り、舐めとって、愛撫し、残痕する不安要素すべてを
取り除いてしまいたいほどの、────…
「…なんだ、見てたのか」
しっかり、視線のさきは自身に固定され、厳かに問い質してくる姿に、
気分を良くしたグレーブラック髪の、
玲瓏たる男は。
伊万里の警戒色とは裏腹に、あっけらかんと肯定の促しをひとつ、
しすがに。
空気のなかに
落とした────…。