ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」

願いを叶える花

 週末が明け会社に着くと、いつも掃除をしている蘭の姿は見えなかった。
 いつものように玄関先は掃除がしてあり、植木にも水があげられている。

 すでに朝の業務を、済ませているような状態だった。
 少し気になりながら社内に入ると、蘭が慌てるように近寄り話しかけてきた。

「京子さん。さとし、学校辞めないみたいです。卒業まで頑張るって言っていました」

 そう語る蘭の表情は、今までに見たことの無いほどの笑顔だった。

「そ、そう、よ、良かったじゃない」

「ありがとうございます。京子さんのおかげです」

「うん、良かった、良かった」

 あの日少しお酒が入っていた私は、話した内容が薄らいでいた。
 ただ、愚痴のような言葉を聞いてもらいスッキリしたことと、使うことのなかった五円玉の振り子を、賽銭箱に入れたのだけは覚えている。
 
 さとし君もお酒を飲んでいたから、良い感じに解釈してくれたのだろう。

 そんなことを考えると、駅で観た茜の姿は、酔った私のまぼろしだったのだろうか?
 考えながらふと目が合うと、笑顔のまま私の言葉を待っていることがわかった。

 よーし、ここはお祝いの意味も込め、景気よく蘭が見ることが出来なかった、最高の決めポーズを披露してあげることにしよう。
 
 私は目を閉じ、これから話す言葉を考えた。

 よし、これで行こう。

「まあ、私は美貌も知性も兼ね備えた、大人の女ですから…………ね!」

 最後の語尾で人差し指を顔の前に持って行き、更にウインクをしてみたが、そこには蘭の姿は無かった。

「お茶入れてきますね」

 蘭は話の途中にもかかわらず、さっそうと給湯室に移動し始めていたのだった。
 私は人差し指を出したまま、数秒その場に放置されると、ほこりが無いか窓際の場所を指でスーッとなぞって確認していた。

 よし、今日も綺麗だ。

 
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