ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 次に向かった店は、路線と路線の間に位置する、少し不便な場所に有った。
 記憶をたどり浮かび上がった、存在だけを知るお店だ。
 距離的に時間は掛かるが、目的の物が購入出来る喜びが、そんな苦労も薄らいでしまう。

 店内を覗くと、小ぶりでふくよかな、老婆が椅子に座っている。
 私はサングラスをかけることも無く、今度は素直にペンタゴンが置いてあるかを訪ねていた。

「すみません。ペン……ペンタス。ペンタス置いてありますか」

 彼女はゆっくり立ち上がると。私を見て、万遍な笑顔で小刻みにうなづいている。
 私は安心をし、肩から力が抜けていた。
 彼女はゆっくり一歩二歩、歩くと、店内中央に飾られた花を手で示した。
 そこには数多く置かれる植物の中で、特別な存在を感じるほど、可憐で気品をまとった花が置いてあった。

「素敵、これがペンタス。想像より存在感があるわ」

 初めて見る花、それはまるで美術品のように美しかった。

 お辞儀をするように曲げた長い茎には、並ぶように大きな花で埋め尽くしている。
 その茎を二本三本と、一つの鉢に植えることで、まるで美しい蝶達が集まり、飛び回る姿をしていた。
 
 めまいがするほどの、感動を味わっていた。
 そんな私に彼女は、追い打ちをかけるように言葉をかけてくる。

「花言葉は、共にする喜び」

 私はすっかり、打ちのめされていた。

「すみません、これをください」

 購入する意思を伝えると、カバンから急いで財布を取り出していた。
 笑顔で財布の所持金をつかみ待っていたが、彼女は何をするわけでもなく、私の顔を見て万遍な笑顔で小刻みにうなづいている。

 どうしたんだろう? おばさん。運びやすいように包装もしてくれないし、いくらするのかも伝えてくれない。

 困惑しながらも、何気なく見た値札に絶句した。

「えっ、ペンタスって四千円もするの? ラーメン一杯が二百円だから、一体何杯食べれるのよ」

 想像していた値段より高額なことに驚くと、お札をつかむ指先の力は、いつの間にか緩んでいた。

 確かに豪華だし、願いを叶える花だから、これぐらいの価値はあるのかもしれない。
 でも高すぎない? だって子供達が購入しているのでしょ。最近の親は子供にお小遣いあげすぎよ。

 深くため息をつき、改めて値札を見ても、値段は変わることはなかった。
 諦めた気持ちになりながらも、値札上の品名に目を移すと、ある疑問がわいていた。
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