ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 笑顔の茜を見て安心していたが、彼女からの香りを意識してしまう。
 いつもの素敵なジャスミンの他に、うっすらとにじむ消毒液のような香がしたからだ。

「う、うん、そうね。何話せばいいんだろう」

 咄嗟に出たきっかけの言葉は、特に用意していた訳ではなかった。

「そうだ。今私、ペンタスってお花が気になっているんだー。若者の間で流行っているんでしょ、知っている?」 

 表情は確認出来なかったが、何か考えたかのような沈黙だけが伝わってくる。

「……はい、私の好きな花です。京子さんもお願いをするのですか」

「うん、えーとね、本当は今日その話を聞いたばかりなんだー」

「……そうなんですか」

 私達は駅までの間、願いを叶える花、ペンタスの話をしていた。 どこからか出た、非現実なおとぎ話。
 話し込む自分に、こんな子供じみた話でも、心の片隅では信じてみたいと思う気持ちは、昔から消えることは無かったと気付かされていた。

「茜は、何かお願いしたの?」

「お願い事はいっぱいしました。一つお願いをしては飾り、またお願いしては飾りと、次々に増えちゃって」

「やーね、意外に欲張りなのね」

 ゆっくり歩く茜の足取りは、このひと時を長く楽しみたいと思う気持ちの表れだと理解したが、何故か少し違和感の残るものだった。
 とても疲れているような、歩くことを一生懸命に行っているように思えた。

「でも、願い事が叶う前に何度も枯らしてしまいました。それを観ていたら、なんだか私の願いは叶えられないと、苦しんでいるように思えてしまい」

 悲しい声色から感情が伝わると、言葉を失ってしまう。
 家庭のことだろうか、習い事や学校の成績だろうか、今まで考えることの無かった人それぞれの環境を、詮索するように受けとめていた。

 迷っている私に気付いたのか? 顔や身体を私に向け、切り替えるように声をはずませた。 

「でも京子さんと出会ってから気付かされました。頼ってばかりでわなく、自分でも努力しないといけないって」

「えっーそんな凄いことしてないよ、難しいことも考えていないし」

「いえ、京子さんはなんか、人に寄り添い励ましてくれている。うまく言えませんが、親切で無邪気で清らかな心を持った、名前のとおりの人ですよ」

 
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