ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」

京子の願い事?

 翌日、仕事が終わった私は、一人になることを心細く感じていた。
 茜から約束の日までは、水路横のベンチには顔を出せないと聞いていたので、帰宅する足取りが重くなっている。

 外国だから手続きなど、いろいろな準備があるのだろう。
 しかし、こんなにも心を苦しめるとは、思っても見なかった。

「京子ちゃん、戸締りお願いね」

「はい、明日は郵便局に寄ってから出社するので、少し遅れて来ます」

「京子さん、お先に失礼します」

「うん、ヴァイヴァーーイ」

 明るく装いみんなの帰宅を見送ると、夕陽が差し込む社内で一人、ペンタスを見つめていた。
 咲き始めた姿を眺め、寂しさを紛らわせたかったのかもしれない。

 仕方のないことだと割り切っていても、茜が居なくなることの寂しさが膨らんでいく。
 いずれ正も東南アジアに旅立つことを考えると、強がり誤魔化すことに自信がなくなっていた。
 私は自然に、すがるように話しかけていた。

「まさか貴方がペンタスだとは思わなかった、不思議な偶然ね……」

 放射状に実る蕾は、三つほど形出し、そのうちの一つだけに白く色づくものがある。
 少しばかり葉も成長したせいからだろうか、以前のような見窄らしさは消えむしろ逞しくも見える。
 微笑んでいるような、安心させるような、何かを私に訴え掛てくれているようだった。

 「なんかわからないけど、ありがとうね。そうだ、お礼を言わなきゃ。貴方の仲間が、蘭のお願いを叶えてくれたみたい」

 蘭がそのことを話す姿を思い出し、少し表情がほころんでいた。
 本来なら恋愛は赤色かピンク色だが 願いをした紫のペンタスは、仕事の願いが叶うと言われているらしい。
 違う色でも願いが叶ったと、感謝するように喜んでいた。

 白色はオールマイティーだからと、安心させるようにも話していた。
 都合よくルールを作っているところが、子どもらしい発想だ。

 可笑しいと微笑みながらも、経緯を考え深刻に受け止めてしまう。

 実際、蘭も両親の都合で、悲しい思いを経験してきたのに、今度も自分のことのように彼のことを願っていたのだから。

 正は戦禍に巻き込まれた人のために出かけると話し、茜だって、ドイツに旅立つのは、自分の意志とは違うのではないかっと考えてしまう。
 
 私は何か否定するように、残念な気持ちになっていた。

 
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