ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 次の日、仕事の郵送手続きのため遅れて出社すると、窓辺にたたずむみんな視線は、悲しい形で私に向けられていた。

「どうしたんですか? みんな揃って」
 
 見守られながら近づくと、ペンタスだけがその場所から消えていた。
 窓際の板の上には、容器の形にかたどられた、汚れだけが残っている。

 呆気に取られた私に、先生が重い口を開くように語った。

「ごめんなさい、京子ちゃんの大事にしていた花を誤って落としてしまったの」

 謝罪の声にわれに帰ると、先生のことを傷つけないように言葉を返していた。

「いえ、そんな、いつまでも不安定な容器のままにしていた、私も悪いのです」

 先生の手を取り、そんな言葉を交わしていた。
 影に隠れるように立っていた守君も、小刻みに近よると、頭を下げ私に謝りだした。
 手には何故だか、見覚えのある空き缶と、水差しを持っている。

「すみません。僕が折り紙の写真を写すのに、窓際の植物も一緒に写ったら絵になると思い。悪いのは僕なんです」

 守君の発言で安心をしていた。

「てめーこのやろー、お前かー私のペンタス落としたのは」

 叩かれながらも、ペンタスの入っていた容器を私に診せ、言い訳をしている。

「落してからすぐに探しに行ったのですが、痛っ。容器は見つかったのですが、花は雑草と同化してわかりづらくて」

 蘭も痛そうな顔をしながら、叩かれている守君を観ないようにし、状況を説明していた。

「一緒に探したのですが、もともと小さかったから、見つけ難いのかもしれないです」

 私は叩きながらも、蘭の言葉に納得をしていた。
 その日、午後から時間を作り私と蘭と守君の三人でペンタスを探していた。

 確かに雑草が凄く、花の無い葉っぱだけのペンタスは見つけづらいことがわかった。
 また、落ちたと思われる草むらには虫が多く飛んでいて、探すのをためらってしまうほどだった。

「しょうがない諦めよう、二人ともありがとうね」

 ムリに笑顔を作っていたが、正、茜、そしてペンタス。私は大事な存在が目の前から消えてしまうと考えてしまい、自分でも信じられないほど、落ち込んでいた。

 開花していないペンタスに、お願いしたから罰が当たってしまったと思うほどだった。

 それから数日間、何もするにも身が入らない日が続く、業務中での出来事。
 私に、新たな出会いが待っていた。
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