ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 机の上にはカレンダーの裏を使用し切り揃えた物が、大きなクリップで束ねられ置いてある。
 それをメモ紙としてペンを当てると、円を描く動作を繰り返した。

「凄い。書きやすい」

 滑るような気持ちのいい手ごたえに、声を出してしまう。
 共感してもらいたく蘭に顔を向けたが、こちらを見ないように不機嫌な表情であさっての方向を見ていた。
 私は少し残念に感じながら、今度は自分の名前をすばやく走り書きしてみた。

「なーに、このペン、びっくり仰天だわ。驚き桃の木山椒の木よ」

 大げさにも取れる独り言に、蘭も我慢が出来なくなったようで、笑いが漏れる声で聞いている。

「もーぅ、どうしたんですか。何に驚いているのですか?」

 視線をそらし顔を向けることは無かったが、状況を知りたそうだ。

「抵抗も無く、綺麗な線を引いてくれるの」

 イメージしたラインを忠実に描くそのペンに、私はそのような表現しか出来づにいた。

「ふーん、そうですか」

 蘭は交換を持ち掛けられることよりも、意地を張る冗談をしているように、こちらを見ることは無かった。
 私は書きやすさもそうだが、何よりその大柄なデザインを気に入っていた。

 外観がただ黒いだけのペン、そこに白いヒトデのマークが可愛らしかった。
 私はこの日プレゼントをもらったような、嬉しさがこみ上げていた。

 その日の夜、頂いたペンを使用したくなったのだろうか? 正に贈る手紙を書く気持ちが強まっていた。

 不思議なことに、今まで文書を一行も出だしさえも書けなかったはずなのに、ヒトデのペンを便箋の当てると、滑るように書き進めて行く。

(久しぶりだね、手紙を書くなんて)などの書き出しに、安心していた。

(名も無い数多くの星があるように。この人々がすれ違う東京で、私達は惹かれるように出会った)と書き進んでいくと、正直、何故私がこんな文書を書いているのか不思議に思えていた。

 それでも今まで進められなかったことを考えれば、自分でも進歩したなどと諦めるように認めていた。

 でも、なんて書きやすいのだろう。気持ちよく書けるせいか、文豪にでもなったみたい。


 
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