ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 心がおだやかになると、何気なく進める文書は彼との思い出をつづったものになっていた。
 大学で出会ったこと。お互いの友人同士で出かけたこと。
 そして正に交際を申し込まれたことなどを、私達の思い出をヒトデのペンが書き上げていく。

 そうよ、そんなこともあったわ。

 私が書いているはずなのに、文面を進めることで記憶が蘇って行くようだった。
 
 当時のことを思いし恥ずかしくなると、まぶたを閉じて余韻にしたっていた。
 閉じたままにもかかわらず、それでも文書は書き進んでいくようだった。 

(さよならなんて言えない、だけど貴方の夢も大事にしたいから、ほんの少しなら我慢する)

 自分でも忘れていた気持ちを、恥ずかしげもなく書き進めて行く。
 十年前に戻ったかのような、とても幼稚なラブレターのようだった。

(離れたくない。無事に戻って来てほしい。私はそのことを……)

 そんな言葉を書いたところでペンを止めると、我に返る思いでまぶたを開いていた。
 慌てるように読み返した文書には、正を一途に思う気持ちを書き上げてしまっていた。

 だっ、駄目よ。こんな未練タラタラな文書、ただのラブレターじゃない。
 誤字脱字だらけだし。しかも中間に、好きよ。好き好き好きーって書いてある。
 書き直さなきゃ。

 とても大人が描く文書とは思えない内容に、恥ずかしさで顔が熱くなり、手で団扇のように仰いでいた。
 だけど、後ろ髪引くその文書は、今の自分の気持ちそのものだった。

 手紙をくしゃくしゃに丸めるてみたが、ゴミ箱に捨てる事が出来ずにいた。
 再び拡げると、自分で書いた文書を、虚しい気持ちで読み返していた。
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