ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」

ドン底でズンドコ

 私の名前は霞京子(カスミキョウコ)。現代アートの新星と呼ばれたこともある、プロのアートデザイナー。
 都内の公共施設のシンボルマークや、某有名会社の敷地内に置かれる、オブジェなんかもデザインしたことがあったわ。
 幼少期から絵に興味を持ち、学生時代には数々の美術コンテストで入賞していたの。


 二十八歳の時にはすでに日本では有名になり、業界内で出回る専門雑誌にも取り上げられていたわ。世界で通用するとまで言われ嬉しかった、もともと世界を目指していたから。
 仕事は常に依頼があったの、断ってもどうしてもと頼まれたりするぐらい。


 仕事に比例して生活も豊に。高級な衣服を纏い、食器や家具なども外国製。気が付けば贅沢な暮らしを楽しんでいた。
 絶好調の私は単身イギリスに行き勝負を挑んだの、世界で名だたる芸術家が集まるコンクールに出場するために。


 二年間そこに住み、勉強しながら作品を作る。投票形式で出場出来る仕組み。
 日本では私の作品を否定する年配のおじ様やおば様達がいたけど、世界で名前を売って見返してやる、イヤ失礼、認めてもらう。
 そう思い二年がたった現在、日本に帰ってきたの。

 ダメだったみたい。

 時代が私にまだ追いついていなかったのかしら? コンクールには出場出来ず、あちらでの評価もまるでダメ。 
 次のコンクールが有るころには、私の芸術性が理解される時代が来る、そう前向きに考えながら現在オフィス兼住まいの賃貸マンションにいるけど、それにしても最近仕事の依頼がめっきりこないわ、日本に戻って三ヶ月がたつのよ。……なぜかしら?


「ウジウジしてもしょうがないかー、お茶でも飲みに出かけよーっと」


 背伸びをしながらつぶやくと、気晴らしのために街に出かけることにしてみた。
 駅ビルにある喫茶店で紅茶でも、そんな考えから駅に向かって歩いていた。


 一九七十年代の現在。東京はヨーロッパにも負けないぐらい、最先端を歩んでいた。
 
 すれ違う人々は、目新しい衣服を着て競い合っているようだ。
 ヒッピーを意識した服装のカップル。シャツにベスト、ネクタイ姿の女性もいる。 
 外国で見た、プラットフォームサンダルを、もう取り入れているわ。


 クッス、驚きだわ。
 春の日差しが都会の街並みをキラキラと輝かせるから、日本も悪くないじゃない。なーんて気持ちが、私の足取りを軽くはずませる。

 すれ違う人々全てが、幸せに映った。
 しばらく歩くと見覚えのある人物が前から歩いて来る。
 あれ、誰だっけなー?


 
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