ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 突き刺すような大きな風の音に、目をつむり肩をすくめた。
 文句を言い続けていることに空が怒っているとも考えた。
 襲い掛かるような鋭い音は、耳元で鳴り響いているが想像していた強風は肌に感じることは無かった。
 
 なーに? 今の音。風……だよね。

 不自然さと恐怖を感じ周りや後ろを振り返ってみたが、木々は揺れることなく物静かな状態だ。

 気のせいかしら?

 足早にその場を離れようと歩き出した私だったが、数歩歩いたところで再び立ち止まっていた。 

 あれ、雨止んでいるじゃない

 何気なく目にしたカサブランカも、日差しを浴びているかのように生き生きしているように思える。

 一体何なの?

 立ち止まったまま見つめていると、先ほどと同じ音が遠くの方で聞こえ周りを明るくしている。

 私は誘われるかのように夜空を見上げていた。
 上空の方で風が勢いよく流れているのか、雲を押し流しているようだ。

「うわー、大きな月」

 驚きのあまり漏れた言葉は、現実とは思えないほど大きく、今にも落ちてきそうな月の存在だった。
 初めて見るその奇妙な姿に、私はこの世が終わるのではないかと思わせるほどだった。

 月は慌てるように雲で隠れたが、陰で小さな光がチカチカっと輝、私に意識させた。
 星?
 先ほどの月とは違い小さく輝く星。

 そんな星を眺めていると、過去にも同じように見つめていた記憶を思い出していた。

 星を眺めるのも久しぶりだった。
 仕事に日々追われ、夜空も見上げる余裕もなかったのかもしれない。

 子供の頃なんか、夕焼け空に一番星が顔を出すのを待っていたほどなのに。
 私はその星を見つめ無意識に有る言葉を引き出されていた。

「クサ……サン……タンカ」

 あれ? なんだろう、この言葉。
 何の意味かなど思い出すことは出来なかったが、星はその言葉を聞くと安心するように後から顔を出す星に紛れ、存在がわからなくなっていた。

 気付くと先ほどの強風は空に広がる雲を押し流し、星が輝く星空に変えていた。
 見惚れる私は冷静さを取り戻すと、先ほど驚かされたことに仕返しをしなければいられなくなっていた。

「おっ、遅いわよ、止むならもっと早くしなさいよ」

 そんな言葉をかけながらも、心の中では少し晴れやかな気分だった。
 それは思いが通じたかのように雨が止んだことだろうか?
 それとも一番星のように輝く星を見つめ、昔を思い出したからだろうか?

 私はその後、涙を流すことも忘れ鼻歌交じりに家路を歩いていた。

< 21 / 164 >

この作品をシェア

pagetop