ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 翌日、少し緊張しながら電話をかけると、受話器の向こうから懐かしい声が聞こえた。
「橘デザインです」
 あっ、先生の声だ。私は嬉しくなり興奮気味に話しかけた。


「先生! 私、京子です。霞京子です。元気ですか?」
「あっ、京子ちゃん、久しぶりねー元気ー」  
 先生の優しい声は、私に活力を与えるようだった。


 最後にお会いしたのが五年前、それ以前はたまに顔を会わせていたのに、仕事が忙しいと言う理由でその機会も無くなっていた。
「帰ってきたって聞いたから、私ねあなたに相談したいことがあるのだけど、時間作れる?」

「はい、大丈夫です。宜しければ今日にでもうかがいますけど」

 そう気軽に答えられたのは、橘デザインが、電車に乗れば十分もかからない距離だったからだ。
 昨日通った小道を歩いても、三十分で着いてしまう。

「良かった。では十五時、十五時以降なら何時でもいいから、会社の方に来てくれる」
 電話を切ってから考えていた。
 先生からの連絡は、私の事情を知ってのことだろうか? どこからか話を聞き、寂しい思いをしていると考え電話をくれたに違いない。


 昔から優しい人だったからなー、相談というのも、気を使って考えてくれた言葉だろう。
 何もかも優しい先生と会えることに、嬉しさが溢れていた。
 

 約束の時間が近づくと、先生に会いたい一心で会社に足を向けていた。



「お母さん、ごめーん、部屋にあるお花取って、靴履いちゃった」
 玄関先に出ると、昨日購入した花を手土産にしようと思い、母にそんな言葉をかけていた。


< 24 / 74 >

この作品をシェア

pagetop