ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 学生のように童顔で小柄な男性。体形より背広が大きいことから洋服が歩いているようだとからかったことがある。 
 そうだ、確か編集部の。

 その男性は以前、雑誌の取材で現れた編集部の人だった。
 気が弱くおどおどしたしゃべりかた。そばかす顔に嘘の付けない真面目な性格が印象的だった。
 現在デザイン業界がどうなっているか情報が知りたく、その男性に声をかけることにした。

「ねえ、あなた元気?」

 男性は顔を見るなり一瞬立ち止まり、驚いた表情を見せた。
 すかさず目をそらすと、音の出ない口笛を吹きながら逃げるように道を変えた。

 あっ、何かあるんだ。

 下手くそな演技で急に脇道に入って行く行動を見て不信に思い、足早に後を追いかける。

 コッツ、コッツ、コッツ、コッツ。

 路地に入ると道幅がせまくなり、私の近づくパンプスの音が大きく聞こえ始めた。
 それに気付いてか、彼も近づけないように足を速める。

 追いかけ見る後ろ姿は、正しい姿勢で前にしか視線を向けていないことから、こちらを意識していることが感じ取れる。
 一定の間隔を開けたまま近づくことが出来ない私達は、競歩のような速度で歩き続けていた。 

 なーに? なんなの? あっー全然近づけない。

 私はさらにスピードを上げ走り出すと、手を伸ばし肩を捕まえようと試みた。
 彼は以外に素早く中々捕まえることが出来ない。 

 しかも右に左へと私の手を交わすように門を曲がり始めた。
 走り出すこと数分。焦った彼は振り返り目が合うと、思わず悲鳴をあげていた。

「うわー」

 ええっちょっと、それだと誤魔化しようがないじゃない。

 私は全力で走り、飛びつくように彼の上着の袖を掴んでいた。
 ようやく観念したかのように膝の上に手を着けながら息を整えている。


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