ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 植物のツタで覆われた外観や、社内の寂しい光景。
 理由を知って理解をすると、それらは全て、先生の心の落ち込みの表れだと考えてしまう。
 お葬式に顔を出さなかったことや、その状況時、声をかけれなかったことに悔やんでいた。
 

 私の記憶は希薄ながらも、旦那さんのことを思い出そうとしていた。
 古風な容姿や落ち着いた喋り方は、かなり年配の男性に映し出されている。 
 先生とお絵かきをして遊んだいた時も、旦那さんは参加することもなく、ただ笑顔で見守っていてくれた。


 整理するように思い出していくと、ぼやけながらも形出して行く。
 印象といえば、子供の私達に合わせ、不思議な話を沢山してくれたことだろうか。

 空が晴れているのに雨が降ると、狐が嫁入りを行っている話。
 
 猫が百年生きると、尻尾が二つに裂けて妖怪になるなど。
 

 どの話も怖かったり、不思議なものばかり。
 今思えば、私達を驚かせて楽しんでいたのかもしれない。
 そう言えば、あの不思議な言葉。先生の旦那さんに教えてもらったんだ。

 クササン……タンカ。

 幸せになる、おまじないだったかしら? 何となく心が優しくなる言葉。
 それと時間帯? そうだ、願い事が叶う時間帯があるとも言っていた。
 子供の頃の曖昧な記憶は、都合のいいように解釈しているとも考えていた。


 いや、でも。内緒だと私にだけ教えてくれたのは覚えている。
 優しくて、面白い人だったからな、先生の旦那さんは。
 頭の中で思い出そうとすると、それは身近な男性、正を思い描いていた。
 

 
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