ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」

ゲルニカ

 ひと月余りが過ぎたころ、会社には複数の仕事の依頼が来るようになっていた。
 やはり営業の守君の力……芝端君の紹介が有ってのことだろうか?
 本日の業務が終わった夕方、守君は外回りから直接の帰宅とのこと、蘭は既に学校へ出かけている。

 社内に残った私と先生は帰宅する準備をしながら、たわいのない会話をしていた。

「京子ちゃん、会社の仕事の方は慣れた」

 窓のカギを閉めながらかけられた言葉に、元気よく答える。

「はい」

 当初のアートデザイナーから離れてしまうという不安は、わずかながら前向きな考えが出来るようになっていた。
 現在ここで働きながらも、チャンスが有ればいくらでも作品が作れると、今は考えていたからだ。


 実際、同じように兼任しながら作品を作るデザイナーもいるし、何より仕事を通じて、新たなデザインの発見は、知識への財産になっているようだった。


 心の中で、窓際に置かれた植物に帰りの言葉をかけていると、先生も近づきそれを眺めていた。
 代り映えのしない植物は、何故か私達に見られ恥ずかしそうにしているようだった。
 先生は、植物を見つめながら話した。

「以前話してくれた雨の日の彼女、今はどうしているのかしら?」

 私はこの植物と出会うきっかけとなった茜のことを、まだ先生には話していなかったことを思い出していた。

「すみません、言うのがおそくなりましたが、あれから彼女と再び出会って、今は友達のように会話をしているんですよ」


「そうなの、それはよかったわね」

「茜ちゃんって名前なんですけど……」

 言葉に詰まる私を先生は不思議そうに見ている。

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