ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 翌日の午後。
 室内の蛍光灯の灯りが優しく感じたのは、朝から降り続く小雨のせいだと思います。
 シトシトとやまない雨が、梅雨時期に入ったと実感させ、何故だか寂しい気持ちにさせます。

 この日、社長と守さんは出かけ、京子さんと二人で作業を進めていました。
 数件の以来を京子さんが終わらせ、それを私が、提出先ごとにまとめています。
 手元の大きめの封筒が一部足りないことに気づくと、気が滅入っていました。

 私は時々資材置き場に入るのですが、入社した時から何だかあの中に入ることを苦手でいます。
 不自然に扉が小さく、なにか違和感を持ってしまいます。
 中には筆記用具や書類以外に、年代物の時計や電話、錆びたハサミも置いてあります。

 窓も無く、一つの蛍光灯がそれらをぼんやりと照らしていると、少し奇妙な空間に感じます。
 誰かに見られている。
 あの部屋に入ると、そんな妄想が広がってしまいます。

 でも、いえ。そんな恐怖感からでしょうか、
 京子さんと一度あの部屋を覗き見た時、薄っすらと、声が聞こえたような気がします。

「見つけたんだね」って。

 そんな怪奇現象的なこと、社長や守さんに、失礼だと思い言えずにいます。
 不安になりながら、視線をうつすと、京子さんは窓にもたれかかるように、窓際に置かれた植物に話しかけていました。

 その植物は、京子さんが入社時に持参した植物です。

 本人は気づいていないのか、時折誰かの愚痴をこぼしています。
 一体何のために、会社に持ってきたのでしょうか?
 京子さんが水をあげているところを見たことがないので、特別大事にしているようには思えません。

 見つめる私の視線に気づいて欲しいと期待を持ちながら、重い腰を上げました。

 
 資材置き場に入ると、一目散に目的の封筒を手にとり、部屋を出ようとしました。
 入り口に立ち振り向くと、興味本位のせいか、部屋の中を見渡していました。

 今日は怖くない。

 心を落ち着かせているせいでしょうか、恐怖心が薄ていました。
 何かあれば近くに京子さんがいると思う、安心感から来るのでしょうか?
 
 視線を部屋の奥に移すと、棚に載せることなく、段ボールが二つ積み重ねて置いてあります。

 
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