ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
「京子。京子」

 正の声だ。もう夢を見ているのかしら。
 
 居るはずのない私の部屋で、正の声が聞こえた。
 ゆっくり目を開けると姿も見える。
 
 なんてリアルな夢なんだろう。心境の変化だろうか? 

 旅立つ正と、仲直りしたいと思う気持ちが、夢の中に出演させている。

 そう言えば二カ月以上会話もしていないし、でも、もう少し男前に描写して欲しいかも。

 私はこの夢の続きを見るため、再び目を閉じた。

「京子。京子」

 あっ、また正の声だ、何て良く聞こえるのだろうか、ステレオ放送より音が良いじゃない。

 不自然に思い再び目を開けると、どうやら夢では無く現実のようだった。
 飛び上がるように起き上がると、思わず叫んでしまっていた。

「正、何であんたが部屋に居るのよ?」

「今日は俺、午後からこっちの方で仕事なんだ。顔を見に寄ったら、京子のお母さんがまだ寝ているから起こしてくれって頼まれて」

 純白の半袖シャツに、タイトなスラックスパンツ。久しぶりに見る正の通勤姿は、以前より凛々しく思えた。
 
 正は机の上に置かれている、鶴やカエルの折り紙を手に取り話している。
 それは前日に、守君からもらったものだった。

「ここ何カ月も連絡取れないだろう。心配で会いに来たんだ」

 結婚前の娘の部屋に、男性をあがらせる母親をどうかと思った。
 しかも現在私達は微妙な関係なのに。

 二人の行動に呆れていた。

「今から着替えるから、下の部屋で待っていて」

 そう告げると私は、この贅沢な時間を切り上げ起床することにした。

 着替えが終わり、顔を洗うため、一階に有る洗面所に下りて行く。
 出された朝食を食べている正の姿が目に映ると、母は私の顔を見るなり嬉しそうに話しかけてきた。

「これから正さん仕事ですって、日曜なのに大変よね」

 まるで自慢の息子のように語っている。

「いただきます」

 楽しく会話をすることも出来ずに、無言のまま食事を済ませた。
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