ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 家に着き和室に案内されると、押入れから浴衣を取り出し見せてくれた。

「若い人が着るならこの辺りが、いいんじゃないかしら」

 淡々と出される浴衣の数に、私達は驚いてしまう。
 蘭は私の側により、先生に聞こえないよう小声でささやいた。

「ここにあるだけで十着はありますよ」

「うん……」

「それと京子さん、今朝言っていた作戦ってなんですか?」

 私は予想以上の数に驚き、質問に答えることはなかった。

「先生、これ以外にも浴衣お持ちですか」

「有るには有るけど、昔のだから柄が古いわよ」

 先生は語りながらも、蘭に着せる浴衣を嬉しそうに選んでいた。

「相沢さんはこれなんかが似合いそうね」

 勧められた浴衣に、蘭は目を輝かせ触れている。
 乗り出すような姿勢で浴衣に興味を持つと、先生はその前で正座のまま、その光景を見て微笑んでいた。
 蘭は先生に選んでもらった数点の浴衣から、どれが良いか悩んでいるようだった。それを見守るかのように優しい目をする先生。

 そんな自分のことのように喜ぶ先生に、何故だか声をかけづにはいられなくなっていた。

「先生も夏祭り一緒に行きませんか」

 その言葉に先生は、楽しみを見つけたかのような笑顔になっていた。

「そうね、あなた達となら楽しそうだから、私も浴衣を着て出かけようかしら」

 浴衣を見ていた蘭も、顔を上げ喜んでいる。

「先生は、当日どれ着ていきますか?」

「そういえば、前々から着たいと思っていた浴衣があるのよ」

 思い出したかのように押入れのさらに奥から、木箱を取り出した。
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