Tageliet──永遠の秘薬──
 そうしてしばらく走り続けていた馬車が突然、馬の嘶きと共に止まる。御者台にいた人影が移動すると、その窓を少し遠慮がちにノックした。

「恐れ入ります、陛下」という声に、彼女はドアを開ける。

 そこに立っていたのは、煌めく長い銀髪が印象的な美しい青年ただ一人。

「申し訳ございません。私はもうこれ以上先へは進めません。じきに追手がやって来るでしょう。ここで食い止めます」

「ディートヘルム⋯⋯」

 か細く名を呼ばれた青年は柔らかく微笑んだ。まるで彼女の心に渦巻く不安をそっとくみ取り、「大丈夫」だと安心させるように。

「もう少し先へ行けば川があります。流れにそって下流まで下ってください。さすれば、その先に小さな村が見えるはずです。そこはもう隣国。ゲオルクもそう簡単には手は出せません」

「あなたには一族の掟がある」

「長老から特別に許可をいただきました。単なる殺生ではございません。殿下とその御子息をお守りするためにございます」

 彼の強い意思を感じたコンスタンツェは、胸が熱くなるのを感じた。

 ルーカスにそこにいるよう告げ、彼女はディートヘルムの手を支えに馬車からゆっくりと降りる。そしてその手を離すことなくぐっと自身の方へ引き寄せると、そのまま彼を強く強く抱きしめた。
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