Tageliet──永遠の秘薬──
 何もかも失った一人の青年は、真実の探究心とその心に僅かに残った復讐心だけを生きる糧に、ここまでやってきたのだ。

「あんたに渡すものがあるんだ」

 そうヴィクトールが差し出したものは、一冊の書物。

 本と呼ぶにはそれはあまりに大きく、そしてとても分厚い。

「これは⋯⋯」

 恐る恐る手に取り、クラウスはその藍色の表紙をまじまじと眺めた。

「『誓いの書』⋯⋯なぜお前がこれを?」

「僕の家に代々受け継がれてきたものだ。とても大切に守られていた。いつか『リーフェンシュタール家』に返さなくてはならない⋯⋯その言葉を添えて⋯⋯」

 それはクラウスにとって、四百年の昔に一度手放した一族のかけがえのない財産。彼の父でありヴァンパイア一族の長老である、フェリクスが遺したこの国の全てを語る彼の日記だった。

「ありがとう」と受け取るそれは、歴史の真実を語る古の書。それは「命」のようにとても重かった。

 クラウスの謝辞にヴィクトールは笑顔で答える。

 そんな二人はまるで、月と太陽のようだった。

 決して交わることのないその二つの星は、漆黒の闇の中で共存する「光」と「影」。

 運命とは不確かでありながら、突然に思わぬ出会いをもたらすものだ。

 過去が手繰り寄せたその瞬間に、歴史は今一度動き始めていた────。
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