Tageliet──永遠の秘薬──

゚・*:.。❁ 四、『記憶の底に眠るもの』

 王の執務室はまるで書庫だ。

 部屋中を取り囲むよう設けられた本棚にはありとあらゆる書物が並べられ、そこには少しの隙間もありはしない。その中でもとりわけ目を引くのが、背表紙に印された紋章が印象的な古書だが、こんなにも多くの書物の中、その一冊だけが特別な存在感を示していた。

 薔薇の紋章────。

 この国で深紅の薔薇を家紋に背負う一族はたったひとつ。

 しかし「彼ら」はもうこの世にはいない。

 アイゼンシュタット王国現国王リュディガー・シュタインフェルトは、その部屋に置かれた立派な執務机で目を通していた古書の表紙をゆっくりと閉じた。

 それはとても古く趣のある書。

 王から王へと代々受け継がれてきた歴史書だった。
< 54 / 131 >

この作品をシェア

pagetop