Tageliet──永遠の秘薬──
 母、アンネリーゼが亡くなったその日から、イザベラは同じ夢を度々見ていた。

 その夢の中で彼女は、その女性を通して誰かを見ていたのだ。

「クリスティーナ」────その誰かが夢の中の彼女をそう呼んでいた気がする、と。

 それが現実でないのは確かだけれど、それはごく一般的な夢とはまた違い、どちらかと言うと潜在的な意識や記憶に近いもの。そして不思議と今も色褪せることはないのだ。

 季節は巡り月日が流れても、イザベラの中には未だ「クリスティーナ」そう呼ばれていた彼女の姿があった。

 そして忘れられないものがもう一つ。

 クラウス・リーフェンシュタール────彼のことだ。

 あれからどれだけの夜を数え、月を見上げただろう?

 なくした記憶は戻らないままだが、クラウスのことは一時たりとも忘れたことはない。あの輝くばかりに美しい銀髪と、想像を越える超絶的な美を湛えた容姿。そして低く心に響く声に、見たものを釘付けにする存在感。

 クラウスの纏うその何もかもが魅力的で、彼女を虜にしていた。
< 64 / 90 >

この作品をシェア

pagetop